MRIの導入で軟骨成分プロテオグリカンの状態が分かりひざ関節症の早期発見が可能

渡辺淳也 千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座特任教授/東千葉メディカルセンターリハビリテーション科部長

軟骨の弾力を維持するプロテオグリカンが画像で分析でき関節症の早期発見を実現

「初期の変形性ひざ関節症では、ひざの痛みやこわばりなどの違和感が起こります。「正座すると痛い」「朝起きたときにひざが痛い」「動きだしのときに痛みや違和感を覚える」という人は、変形性ひざ関節症の可能性があります。
変形性ひざ関節症は、原因が分からないまま放置していると、徐々に症状が進行します。末期になると変形が目立ち、ひざをピンと伸ばすことが困難になります。さらに、安静時でも激しい痛みに襲われ、生活の質が著しく低下するおそれもあります。

変形性膝関節症は、早期発見・早期治療がなによりも大切です。以前の画像診断はレントゲン検査が中心でしたが、現在はMRI(磁気共鳴断層撮影装置)検査の発達によって、関節内の状態をより詳細に調べることが可能になりました。
MRI検査の進歩による恩恵の一つが、糖とたんぱく質が結びついた「プロテオグリカン」という関節軟骨を構成する成分を分析できるようになったことです。

ひざ関節などの関節軟骨の構成成分は、水分が約65~80%、コラーゲンが15~20%、プロテオグリカンが三~五%と言われています。プロテオグリカンは近年、関節軟骨の弾力を維持する物質として脚光を浴びています。
プロテオグリカンは、乾燥剤として知られるシリカゲルのように水分を吸収する働きがある物質です。関節軟骨内のコラーゲンもプロテオグリカンはコラーゲンの内部に存在し、水分を引き寄せることでコラーゲンの保水力を維持し、弾力性のある関節軟骨を保っているのです。
コラーゲンというスポンジの中に、プロテオグリカンというシリカゲルが入っているとたとえてみましょう。スポンジは水を吸収しますが、一定の量を超えると吸い取ることができません。

関節軟骨内のコラーゲンも同様で、関節軟骨がスムーズに動く適量の水分を蓄えるようになっています。プロテオグリカンは、シリカゲルのように水を吸い寄せて関節軟骨内の水分量を保ち、バランスを調整してくれる物質なのです。
関節軟骨を構成するプロテオグリカンは、年を重ねるごとに減少していきます。プロテオグリカンが減ったり衰えたりすることによって、ひざ関節にかかる衝撃を和らげることが難しくなります。そのため、変形性ひざ関節症の発症リスクが高まり、進行も速くなってしまうのです。
ひざの関節軟骨のすり減りを抑え、変形性ひざ関節症を予防・改善するカギは、プロテオグリカンを増やすことです。プロテオグリカンは、運動習慣を変えることで増やすことができます。プロテオグリカンが増加すれば、関節軟骨を改善させることも十分に可能なのです。

渡辺式ソフト屈伸と十分ウォーキングでプロテオグリカンが増加しひざ痛も軽快

私は、プロテオグリカンを増やすため、渡辺式「ソフト屈伸」と「十分ウォーキング」という運動を変形性ひざ関節症の患思者さんにすすめています。実際に三つの運動を患者さんに試してもらったところ、ひざ痛の改善だけでなく、プロテオグリカンが増加していることもMRIの画像で確認しています。
ソフト屈伸は、足を肩幅に開いて立った姿勢でひざを適度に曲げて伸ばすことを繰り返す運動です。 いちばんのポイントは、ひざ関節に過度な負担がかからないようにゆっくりと無理のない軽い動きで屈伸することです。
プロテオグリカンは、大きな負荷がかかると壊れやすくなります。また、ひざを動かさないことでもプロテオグリカンは減ってしまいます。動かさないでいるとひざ周辺の血流が悪化し、関節軟骨に栄養や酸素を送る関節液が不足するという悪循環に陥り、プロテオグリカンが減少してしまうのです。
スポンジに水を含ませるように優しく、ゆっくり、無理なくひざ関節の曲げ伸ばしを繰り返すことで、ひざ関節周辺の血流がよくなり、関節軟骨に関節液が十分に行き届くようになります。屈伸によって関節軟骨が関節液を吸い込んだり、再び放出したりする働きを「スポンジ機|能」と呼んでいます。この働きを促すのが、ソフト屈伸です。

ただし、ひざの角度を九〇度より深く曲げることは禁物です。ひざを曲げすぎると負荷が大きくなってしまうため、腰を少し落とすくらいにとどめるようにしましょう。
変形性ひざ関節症の予防・改善とともに、運動の習慣を身につけるために実践していただきたいのが、一日三十分のウォーキングです。しかし、ひざに痛みのある患者さんが一度に三十分も歩きつづけるというのは困難かもしれません。そこでおすすめなのが、三十分を三分割し、一回十分、一日三回の「十分ウォーキング」です。
ウォーキングを行うさいは「太ももを高く上げるように意識する」「大またで歩く」「両腕は自然に振る」いう三つのポイントを意識してください。太ももを大きく動かしたり大またで歩いたりすることで、ひざ周辺の筋肉が強化されて血液の循環も促進します。また、両腕を振ることで全身の筋肉を使いながら歩くことになり、肥満の予防・改善につながります。
十分ウォーキングの注意点は、決して無理をしないことです。運動の習慣を身につけるというと「続けなければならない」と思い込んでしまいがちですが、一日三回のウォーキングが難しい場合は二回あるいは一回でもかまいません。
前日に行ったウォーキングによって、翌朝起きたときに痛みが強くなっているようなら、回数を減らしたり休んだりするようにしてください。自分なりに判断基準を設けて、無理のない範囲内で習慣化するようにしましょう。炎症があってひざの患部が腫れているようであれば、主治医に診てもらうことも大切です。
ソフト屈伸と十分ウォーキングを習慣化した結果、二週間から三ヵ月間でひざ周辺の筋肉が強化され、関節軟骨も再生してひざ痛の改善を実感する患者さんは少なくありません。次に、十分ウォーキングによってひざの痛みが改善した患者さんの例をご紹介しましょう。

十分ウォーキングとストレッチでひざ痛が改善しテニスをしても痛みの再発なし

● ひざ痛が十分ウォーキングとストレッチで改善したAさん(六十代,女性)
Aさんは、左ひざの痛みを訴えていました。私は、Aさんがテニス以外はほとんど運動をしていなかったのが痛みの原因の一つになっていると考え、一日三回、一回十分のウォーキングを行うようにアドバイスしました。さらに、ひざの可動域(動かすことができる範囲)が少し狭くなっていたため、理学療法士の指導のもとでストレッチも行ってもらいました。
Aさんは、ウォーキングとストレッチを開始して一ヵ月がたつ頃から、ひざの痛みが軽くなったのを実感。三ヵ月がたった頃には下肢の筋カもついてきたといいます。Aさんは現在もテニスを楽しんでいますが、ひざに痛みを感じることはないそうです。
MRI検査を受けてプロテオグリカンの量を調べることで、変形性ひざ関節症の早期発見・早期治療が可能です。ひざ痛に「悩んでいたり、違和感を覚えていたりする人は、一度MRI検時査を受けてみることをおすすめします。

渡辺式「ソフト屈伸」と「10分ウォーキング」のやり方

ソフト屈伸

1.足を肩幅に開いて立つ
2.ひざをゆっくりと適度に曲げて伸ばすことを繰り返す
ポイント:ひざを90度より深く曲げすぎない

10分ウォーキング

1.1日30分を目標にウォーキングする。
2.自分の体力や痛みに合わせて30分のウォーキングを15分で2回、10分で3回などと分けて行う。
ポイント:太ももを高くあげることを意識する

わたなべ・あつや
1996年、千葉大学医学部卒業。同大学医学部付属病院整形外科勤務などを経て、
2005年、同大学大学院医学研究院修了。帝
京大学ちば総合医療センター先進画像診断センター長などを経て
2014年、千葉大学大学院医学研究院総合医科学講座特任准教授と
東千葉メディカルセンター整形外科副部長。2016年より現職。
日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会リウマチ認定医。

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